日本大学前理事長の田中英寿容疑者(74)が脱税容疑で逮捕された事件で、東京地検特捜部が、前理事長の妻が共謀したとみて捜査していることが分かった。妻は前理事長の資金を管理していたとされ、特捜部は前理事長の虚偽の税務申告に関わった疑いがあるとみて調べている。
関係者によると、特捜部は田中前理事長について、妻と共謀の上で、2018年と20年に取引業者らから受領した計約1億2千万円のリベート収入などを申告せず、約5300万円を脱税したとして所得税法違反容疑で逮捕したという。
妻は前理事長あての約1億2千万円の一部を受け取ったほか、自身が経営するちゃんこ屋も現金授受の場所になるなど、取引業者らと夫婦ぐるみで付き合っていた。さらに妻は役員報酬を含めた前理事長の資金全般を管理し、税理士との窓口にもなっていたという。特捜部は所得隠しや虚偽申告に妻も関与した疑いがあるとみている。
一方、妻は体調不良による入院中で事情聴取は困難とされており、特捜部は慎重に捜査している。
また、田中前理事長の隠し所得とされた約1億2千万円の提供者も判明した。
最多は医療法人「錦秀会(きんしゅうかい)」(大阪市)前理事長の籔本雅巳被告(61)=背任罪で起訴=で4回で計7500万円。内訳は田中前理事長の誕生日の際に1千万円(18年12月)、日大板橋病院の建て替えに伴う設計業者選定の謝礼で3千万円(20年8月)、日大理事長再任祝いで500万円(20年9月ごろ)と3千万円(20年10月)だった。
金沢市の建設業者からも3千万円
設計業者選定をめぐる謝礼は別途1千万円(20年2月)あり、日大元理事・井ノ口忠男被告(64)=同=の指示などで大阪府内の設計事務所が用意した。理事長再任をめぐっては金沢市の建設業者からの3千万円、井ノ口被告が複数の取引業者から集めた計約300万円もあったという。
金沢市の建設業者側は20年、台風被害を受けた日大工学部(福島県郡山市)の復旧工事を約8億円で受注したほか、ちゃんこ屋などの改修工事も請け負っていた。
籔本被告は他にも板橋病院への医療機器などの納入をめぐる謝礼として、今年6月に計3千万円を田中前理事長に提供したとみられることが分かっている。この3千万円は税務申告の時期が来ておらず、脱税容疑には含まれていない。田中前理事長は一連の現金受領を否定しているという