2019年03月08日 週刊 週刊朝日に下記の記事が掲載されていました。
ずるいぞ! 自民党100億円借金完済のからくり
政界で「一強政治」を実現した自民党。資金力は豊富で、それを象徴する出来事があった。初めて野党に転落した1993年に、選挙資金として銀行団から借り入れていた100億円を、完済していたのだ。融資は事実上無担保で返済期限もはっきりしないなど、借り手に“おいしい”条件だった。
「やっと完済したと聞きました。党の金庫番で借り入れを担当した古参の職員が約10年前に定年になった後も居続けたのは、銀行への返済が終わっていなかったことも関係していたそうです。これで大きな区切りがつきます」
融資の経緯を知る自民党関係者はこう打ち明ける。昨年11月末に公表された自民党本部の政治資金収支報告書や関係者の話などによると、大手銀行から借りていた計100億円を2017年3月に完済した。
そもそも、巨額の融資が実行されたのは、自民党が初めて野党に転落した1993年7月の衆院選にさかのぼる。収支報告書などによると、6月30日付で、当時の都市銀行8行(三菱、三和、東海、住友、さくら、第一勧業、富士、大和)から12億5千万円ずつ、計100億円を借りた。8行は経営統合を経て、現在の三菱UFJと三井住友、みずほ、りそなの4銀行に集約されている。
当時の朝日新聞の報道によると、融資は「衆院選挙用の資金」だったという。自民党は政治改革関連法案をめぐり分裂していて、融資直前の6月18日には野党提出の宮沢喜一内閣の不信任案が、小沢一郎氏らの造反によって可決。宮沢首相は解散総選挙に踏み切った。
この急な解散総選挙に対応するため、巨額の資金がすぐに必要だった。93年の自民党の選挙関係費を含む支出総額は約250億円。党費や寄付収入は離党者などの影響もあって、前年の188億円から129億円に激減している。その穴を埋めるためにも計100億円の融資は欠かせなかった。
融資後に実施された衆院選では、小沢氏ら自民の離党者が立ち上げた新生党や新党さきがけが議席を伸ばし、細川護熙氏が旗揚げした日本新党も躍進。自民党は過半数の256議席を下回る223議席にとどまった。細川首相の非自民連立政権が93年8月9日に発足。自民の一党支配と55年体制が崩れた瞬間だった。
所属の国会議員が激減し、自民党の財政状況は一気に苦しくなった。その危機を乗り越え、94年6月の自社さ連立政権で与党に復帰できたのは、100億円というカネがあったからとも言える。
問題なのは、この融資の条件が一般企業の案件より借り手に有利だったこと。銀行は通常、融資額に見合う土地や建物などの担保を求める。焦げ付いて銀行が損をしないように、保全するためだ。
だが、入手した複数の大手行の内部文書には、融資の保全については、「自民党本部建物の担保差し入れ念書」と「幹事長、経理局長の保証」と記載していた。担保差し入れ念書とあるように、あくまで「念書」で、実際に東京・永田町にある党本部に抵当権が設定されることはなかった。■有利な担保条件、念書と個人保証
そもそも党本部がある土地(約3300平方メートル)は国有地で、賃貸しているものだ。その上に立つ66年にできた建物の資産価値は、収支報告書によると15億5千万円。一般企業が借地の上にある古い建物を担保に、資産価値の何倍もの融資を受けることは通常あり得ない。住宅ローンを利用する私たちの感覚からしても、おかしいことはすぐわかる。
幹事長や経理局長の個人保証についても、融資が焦げ付いたときに肩代わりしてくれる資産の裏付けはない。ある大手銀行関係者は、事実上の無担保融資だったことを認め、こう明かす。
「念書と個人保証をつけたのは、まあ、何もないより良いでしょうということです」
また、内部文書によると、融資は1年更新の手形貸し付けの形をとっており、更新期日に自民党本部と「条件交渉」をしていた。銀行側の交渉窓口は全国銀行協会の会長行(1年交代)に一本化され、他行は会長行と同じ条件で融資を継続することになっていた。一般企業では細かな返済計画を事前につくり、それに沿って返済する。返済期限がはっきりせず、24年間も借り入れを続けられたのは、銀行団が自民党を特別扱いしていたことを示す。
内部文書によると、金利は近年は1・95%だった。条件交渉では金融市場の動向なども踏まえ、金利が引き下げられたこともあった。
驚くべきは、自民党はこの100億円以外にも、巨額の融資を繰り返し受けていたことだ。内部文書には、別のつなぎ融資についてこう書かれている。
〈年末越えのごく短期のつなぎ資金支援の要請が来る場合があり、その場合は会長行が単独で対応する慣例〉
実際、12年にはみずほ銀行が20億円、14年には三菱東京UFJ(現三菱UFJ)銀行が10億円を融資している。
このほかにも、08年10月には総選挙に備えて、三菱東京UFJ、みずほ、三井住友の3行から各25億円、計75億円もの事実上の“協調融資”を受けている。
前出の内部文書によると、08年の融資も93年の100億円融資とほぼ同じ条件だとみられる。文書には、自民党からの返済額の減額要請に応じて、〈平成26年(2014年)分の返済を12億円→4・5億円に減額〉とある。
100億円融資は完済されたが、75億円融資の返済は17年末時点で33億円残っている。“おいしい”融資は、全てなくなったわけではないようだ。
選挙資金を巨額融資でまかなってきた自民党だが、返済資金はどこから来るのか。主なものは企業から集めた献金だ。税金をもとにした政党交付金によって、党の資金力が全体的に回復したことも後押しした。■豊富な企業献金、大手銀行も再開
まずは献金についてみていこう。自民党の政治資金団体の「国民政治協会(国政協)」が17年に集めた企業・団体献金は約24億円。安倍首相のもとで政権に復帰した12年から6年連続で増えている。大手自動車メーカーや素材メーカー、大手ゼネコン、その業界団体などの献金がめだつ。アベノミクスによる円安や公共事業などで、恩恵を受けているところだ。「安倍一強体制」とも言われるなか、多額の献金をするのは自社や業界に有利な政策を進めてほしいとの思惑が透けて見える。
融資している大手行も企業献金を続けてきた。100億円を融資した93年には、当時の8行が計約6億5千万円を出した。その後も、94年は計約3億7千万円、95年は計約3億1千万円、96年は計約1億4千万円、97年は計約1億4千万円などとなっている。
大手行は金融危機で公的資金の注入を受けたことで、98年にいったん献金を中止する。ある大手行の首脳はその理由をこう語っていた。
「公的資金で救われた大手行が与党に献金するのは、国民に誤解を与える恐れがある。政治とは適切な距離を取ることも大事だ」
ところが、大手行は安倍一強体制が強まる15年に献金を再開した。みずほと三井住友、三菱東京UFJは、15~17年に毎年各2千万円を出している。93~97年までの献金も合わせると、大手行からの献金総額は17億円を超えるとみられる。
借り手に有利な条件で融資し、さらに返済資金の一部も出してあげるとはずいぶんと気前のいい話だ。政治資金に詳しい神戸学院大の上脇博之教授はこう指摘する。
「いずれの巨額融資も、危機的状況に陥った自民党を支えるためのものと言える。返済されないかもしれない貸し出しだからこそ、銀行団として協調して融資したのだろう。銀行側は融資と引き換えに自分たちに有利な政策を自民党に期待できる。持ちつ持たれつの関係だ」
自民党が政権に復帰できず弱体化すれば、融資が焦げ付くリスクが高まる。回避するには、自民党をずっと支えるしかない。もし融資を拒否すれば、政権からにらまれる恐れもある。銀行は政府から様々な規制を受けており、政権と対立するのは絶対に避けたい。本来銀行より立場が弱いはずの借り手が強気に出られるのは、こうした背景もある。
野党でも借金をしてきたところはあるが、規模では自民党が突出している。
昨年11月に公表された各政党本部の政治資金収支報告書によると、17年末時点で銀行からの借り入れが残っている政党は、自民党と日本維新の会のみ。日本維新の会は17年10月にりそな銀行から4億円を借り入れ、そのうち3億円の返済が残っている。■交付金返済後押し、国民1人250円
自民党の財政が再建できたのは、政党交付金のおかげだともいえる。総務省は自民党を含む8政党から、2019年分の政党交付金の申請があったと1月17日に発表した。交付額は1月1日時点で政党に所属する国会議員数と、直近の衆院選と過去2回の参院選の得票数をもとに決まる。総額は約317億円で、そのうち約178億円が自民党に配分されるとみられる。17年の約176億円を上回り過去最多となりそうだ。
野党の見込み額は国民民主党が約54億円、立憲民主党が約32億円などとなっており、自民党の資金力は大きい。
政党交付金は、もちろん私たちの税金が出どころだ。国民1人あたり250円の負担をしている。
自民党の使途報告書によると、交付金は銀行への返済には直接使われていないことになっている。だが、全体的に見ると、交付金のおかげで全額返済できるまでに、資金力が回復した格好だ。
「政党交付金で政治資金に余裕が生じ、結果的に返済資金ができている。税金で借金を返済しているようなものです」(上脇教授)
そもそも政党交付金は、リクルート事件などで「政治とカネ」が問題になり、できた制度だ。政治家個人が企業・団体献金を受け取れなくする代わりに95年に始まったが、政党への企業・団体献金は認められたまま。
お金が必要な時は銀行から借りて、豊富な企業・団体献金と私たちの税金をもとにゆっくり返済する。このやり方で、自民党はお金をため込むようになった。政治資金は余っており、翌年への繰越額は15年以降、100億円を超えている。
自民党は取材に対し文書でこう回答した。
「収支報告書の記載事項以上の内容については政治活動の自由に鑑み、回答は控えたい。なお返済にあたっては党執行部の了解のもと、全ておこなっていることは言うまでもありません」
今年は4月に統一地方選、夏には参院選が予定される。12年に一度、両方が重なる「政治決戦の年」だ。選挙には各党ともカネをかけるため、資金力の争いも激しくなる。可能性がささやかれている衆参同日選ともなれば、銀行から融資を受ける政党が出てくる可能性もある。
有権者は政治資金の集め方や使い方について、無関心ではいられない。
(朝日新聞記者・津阪直樹、五十嵐聖士郎、板橋洋佳、座小田英史)