***********(以下は18年4月28日)************
2018.04.25 毎日新聞東京夕刊にで、円楽師匠が次のような談話を。良いですね~。
「お笑い」には政治や世相を斬る力がある。ならば、あの落語家はどう社会を見ているのだろう。人気長寿番組「笑点」(日本テレビ系)の大喜利でレギュラーを40年務める三遊亭円楽さん(68)。「腹黒」キャラと、芸を究める姿勢に裏付けられた噺(はなし)にファンは多い。さあ、師匠出番です――。【油井雅和】
笑点の大喜利で世相風刺を入れ、客席を沸かすのはお決まりのシーンだ。22日の放送でも、配られた矢印を下に向け「あの文書改ざんがまずかったかなあ」。司会の春風亭昇太さんが「なんですか?」と聞くと、「内閣の支持率です」。笑いとともに「おお!」と納得する声が会場から上がった。
だが、寄席と違って、テレビ番組では好き勝手に話せない。しかも時間は限られる。
「深く言えないつらさがあるんだよね」。春うららかな昼過ぎ。トリを務める国立演芸場(東京・三宅坂)の公演の稽古(けいこ)場で円楽さんはつぶやいた。「僕ができるのは、小石を投げておいて、皆さん考えてください、と。そこまで。番組のあいさつでも大喜利の答えでも、僕はきっかけ屋なんですよ」。テレビでは決して聞けない打ち明け話である。
円楽さんの高座は常に「満員御礼」である。観客が満足しても時には発言がネット上で「炎上」することも。
「噺家って、世間におもねるだけじゃなくて、気づいたことや、考え方の違いをポーンと言うのも必要だと思うんですよ。それが、今のネットの皆さんには『何を生意気なこと言ってやがんだ! そんなに政治が分かってんのか!』というように広がる。それもいいことだと思いますよ。僕は不愉快だけど(笑い)」。信念は揺るがない。
「テレビで政治的なことは言わない方がいい」と心配してくれるファンがいることも分かっている。でも、そこは生粋の江戸っ子。気がついたことや変だと思ったことを口に出さずにいられない。その原点は学生時代にあるという。
「僕たちの世代は大学でオルグされたり(学生運動の勧誘)、『お前は(体制側と反体制側の)どっちなんだ?』とか言われたりして考えさせられましたよ。僕も、神田のカルチェ・ラタン(闘争=1968年、学生たちが起こした解放区闘争)や新宿騒乱事件(同年)の現場に行きましたもん。捕まらずに逃げたけど(笑い)。あの当時は、訳が分からないけどやらなきゃいけないという、いい意味の若さがありましたね。でも、自宅に帰って、ふと落語を聴いて思ったの。何が世界同時革命だ。落語の世界にユートピアがあるじゃないかって。人がいて、助け合って……」。大学在学中に先代の円楽師匠に入門する。20歳の時だった。
そんな青春時代を送っていたせいか、同世代の生き方に辛口の注文を付ける。
「70年安保が終わって出てきたのが『ノンポリ』ですよ。経済がよくなって飯が食える。遊べる。そうすると、自分のこと考えてればいいや、お上に逆らってもしょうがない。それでみんなノンポリ。だから投票にも行かなくなる、デモも行かなくなる。我々年寄りはノンポリではいけません。国政選挙の投票率の低さ見て分かるでしょ。僕は投票、行かなかったことないですからね。ものを言う以上は、義務を果たさなきゃ」
実は税金通である。大学教授と徹底討論した「六代目円楽と税を考える」なんて本も出している。だからこそ、安倍晋三政権が来年秋に消費税を増税することに強い関心がある。「政府には『ごまかすな』って言いたい。増税の必要はないよ。まだ早いし、実効税率をきちんとすれば8%でまだまだいける。そもそも消費税導入は、直接税と間接税の割合を見直そうという目的だったんですよ。直接税の重税感を和らげようとね。でも、消費税が定着して重税感は解消しましたか?」。高座とは打って変わった真面目な表情で税の在り方を論じる。
仕事で全国を駆け回っているが、とりわけ福島県のことが気に掛かる。話題は次第に東京電力福島第1原発事故に移った。「原発に向けてミサイルを何発も発射されたら、迎撃しようとしても間に合いませんよ。それを誰も言わないでしょ」との言葉に力を込める。
今は原発の危険性を感じているが、以前は違った。円楽さんは過去に電力会社のPR活動に関係したことがある。「私だって『クリーンなエネルギー』って言っていましたよ。でも、福島の現状を見たら、そう言えないよ。反省しないと。それなのに原発を外国に売ろうとしている日本があるわけ。原発事故で発生した福島県内の放射性廃棄物を全部処理するのに何年かかるか分からないのに……」。東北を忘れちゃダメだと思う――。そう口にする円楽さんの目はどこか寂しそうだ。
税金通だから「被災地と税」も語らずにいられなかったのか。「復興税って知ってる? みんな忘れてるけど、今もちゃんと2%取られてるの。こないだ確定申告終わって気づいたの。僕の2%は大きいのよ(笑い)。被災地のために使ってほしいよね」。聞き手を楽しませようと「腹黒」キャラを演じつつも、言葉には被災地に思いを寄せる気持ちが入り交じる。
◇本来の日本の形は落語の中に
東日本大震災直後は「絆」なんていう言葉があふれていたけど、今では他人と体がぶつかっただけで、事件に発展することもある。ギスギスした現代をどう生きればいいのだろう?
円楽さん、「僕は落語の中に最高の教育があると思ってます」と切り出した。八っつぁん、熊さんに、ご隠居さん。ボーッとしてるけど憎めないキャラクターの与太郎……。「落語の国」の住人はエライ人も極悪人もいない。「長屋があって人がいて、つながりがあってルールがあって、たしなめる人がいて。助け合って譲り合って生きていく。これ、本来の日本の形ですよ。それが今、全部ないじゃないですか。みんなわがまま言って勝手に生きて。防犯カメラくっつけて、うたぐりあって鍵かけて。それって日本人なの?と思うことがあるもの」
そんなの「落語の国」に限ったことという冷めた見方があることも分かっている。でも、悲観はしていない。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、私たちは変わるチャンスがあると信じているからだ。
「東京五輪が近くなって、外国人観光客がいっぱい来るけど、日本人はみんな親切だよ。話しかけられりゃニコニコ笑って。シャッターも押してあげるし、行きたい場所を案内してあげる。この前、僕も外国人のためにタクシーを止めてあげたもの。だけど、なんでその優しさを日本人同士でやらないのよ」
外国人観光客に対してできることを普段からやればいい――。そんな単純明快な答えを披露した。大喜利なら昇太さんが「座布団2枚!」と叫ぶかも。
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■人物略歴
◇さんゆうてい・えんらく
1950年、東京都墨田区生まれ。70年、青山学院大法学部在学中、五代目三遊亭円楽に入門。77年、27歳で「笑点」の大喜利レギュラー。2007年から毎年秋、福岡市で「博多・天神落語まつり」をプロデュースする。10年、六代目円楽を襲名。