朝日2021年10月17日 朝刊
中国共産党の理論誌「求是」は16日付の最新号で、共に豊かになる社会を目指す「共同富裕」に関する習近平(シーチンピン)国家主席の演説を掲載した。「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、中国式現代化の特徴だ」としたうえで、中間所得層の拡大や税制改革に取り組むとしている。
習氏は「共同富裕」の実現を目標に掲げるが、具体策が明らかになるのは初めて。「高すぎる所得を合理的に調整する」とし、所得税制度の改善を掲げた。累進課税強化が念頭にあるとみられる。中国では導入されていない固定資産税について「立法化に向けた改革を積極的に進める」とし、試験導入する考えを打ち出した。「第3次配分」と位置づける寄付制度の充実へ公益慈善事業の税優遇も図るとした。
一方、中間所得層の底上げや拡大に向けては、中小企業の支援や技術者の育成などのほか、独占業界の改革も挙げた。寡占化が進んだIT業界などへの締め付けはすでに始まっている。家庭の教育負担の軽減にも努めるとしており、非営利化を進めた学習塾改革などはさらに強まりそうだ。
習氏は演説で「一部の国で貧富の差が拡大して中間階級が落ち込み、政治が分極化している。我が国は両極化を断固防ぎ、社会の調和と安定を図らねばならない」と強調。「2035年までに基本的な公共サービスを均等化させる」「今世紀半ばまでに全体の共同富裕を基本的に実現する」などとスケジュールも示した。
共同富裕を進める原則として掲げたのは、機会の均等や分配の強化だ。ただし、政府が過度に市民社会に介入することや急速に改革を進めることには慎重な姿勢も示している。
演説は8月に重要会議である中央財経委員会で行われた。議論の内容は公表済みだったが、習氏の発言はほとんど明らかにされていなかった。(北京=冨名腰隆)