何より、日本で目にするトランプ氏の姿からすると、彼に7千万を超える票が集まったのは信じがたい。民主党のエリート的な政治への反発が強く、それが反知性主義的な空気を醸成しているのかもしれない。

他方で、トランプ氏に危機感を持った民主党左派のグループが積極的に投票活動を行ったことが、民主党候補の勝利につながったことも間違いあるまい。

バイデン氏は、膨大な右派からの反知性主義的批判と、自分を支えた左派の期待の中で、政治のかじ取りをしなければならない。

米国社会が大きく分断されていることがあらわになったが、こうなった原因の一つは、1986年のレーガン税制改革であろう。

当時のレーガン大統領は高等教育への支出を削減し、大学の学費の高騰を招いた。一方、税制では所得税の最高税率を一気に28%に引き下げ、企業役員ら富裕層を優遇していった。バイデン氏も賛成票を投じた。

それから30年、気がついたら、分厚い中間層が解体し、著しい格差社会になってしまったのである。

日本も米国の税制改革の方向性を踏襲してきたため、格差が拡大した。反知性主義的傾向も増しており、例えば、日本学術会議への権力の人事介入は重大な問題なのに、学術会議をあざ笑うような発言すら聞かれる。

最近邦訳が出版された「つくられた格差」(光文社、原題「The Triumph of Injustice」)には、民主党左派の税制改革案が示されている。まずはバイデン氏がこれをどこまで採り入れるか、そこに注目したい。(比叡)