再生エネの財源、原発事故処理に流用可能に 改正法案
朝日新聞2020年3月18日 6時00分
政府は再生可能ルギーの普及などに使い道が限られているお金を、東京電力福島第一原発事故の処理費用にも使えるようにする。処理費用が想定よりさらに膨らむ恐れがあり、財源が逼迫(ひっぱく)することに備えるという。使ったお金は将来、返すとしているが、一時的でも原発政策の失敗を別の目的で集めたお金で穴埋めすることになる。原発のお金を今の仕組みでは賄えなくなってきている。
政府は一般会計予算とは別に、エネルギーの関連予算を「エネルギー対策特別会計」(エネ特)で管理している。さらにエネ特の中で目的別に財布を分けていて、原発の立地対策など主に原子力政策に使う「電源開発促進勘定」(電促勘定、年3千億円ほど)、再生エネや省エネの普及、燃料の安定供給などに使う「エネルギー需給勘定」(エネ需勘定、年8千億円ほど)などがある。
膨らむ原発費用、「安い電気」は本当か 法改正案の思惑
電促勘定の財源は、電気利用者の電力料金に上乗せされている電源開発促進税で、エネ需勘定は石油や石炭を輸入する事業者などから集める石油石炭税となっている。両税はいずれも、それぞれの勘定の目的にしか使えない特定財源だ。ところが、政府は今月3日、エネ需勘定から「原子力災害からの福島の復興及び再生に関する施策」に使う資金を、電促勘定に繰り入れられるようにするための改正特別会計法案を閣議決定し、国会に提出した。エネ特で勘定間の繰り入れを可能にする変更は初めてという。
背景には、電促勘定の苦しい台所事情がある。同勘定の収入は例年大きく変わらない。ただ、東電が負担するはずの原発事故の処理費用について、2013年12月の閣議決定で一部を政府が負担することになり、14年度から汚染土などの廃棄物を保管する中間貯蔵の費用を電促勘定から毎年約350億円計上してきた。
その処理費用は当初想定より膨らんでいる。経済産業省が16年末に公表した試算で、中間貯蔵事業は1・1兆円から1・6兆円になり、電促勘定からの支出は17年度から年約470億円に増えた。政府関係者によると、今後さらに増える可能性があり、財源が足りなくなりかねないという。
政府は改正法案を今の国会で成立させ、来年4月の施行をめざす。福島の復興を確実に進めるためと説明し、法案では繰り入れた資金は将来、エネ需勘定に戻すことも定めているので問題ないとする。ただ、再エネ普及などのために集めたお金を一時的にでも、国民の間で賛否が割れる原発のために使えるようにする変更には反発も予想される。
青山学院大学の三木義一・前学長(税法)は「特別会計は一般会計に比べ、国会で審議される機会が少なくチェックが利きにくい。今回の変更の内容は原発に関わるだけに重大で、異論を唱える国民もいるのではないか。適切な改正なのかどうか、政府は国民にわかりやすく説明する必要がある」と話す。