2021.08.17 エコノミスト 第99巻 第30号 通巻4710号 72頁に岩田太郎さんの以下の論考が。なるほど。
世界130カ国と地域が、国際的な法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけるために7月に合意した15%以上の最低税率。当初標的とされた米テック大手だけでなく、他の先進国の巨大企業も対象となったことで、「米国の勝利だ」との見方が米論壇で出ている。
この合意についてピーターソン国際経済研究所のシメオン・デヤンコフ上席研究員は7月7日付の同研究所サイトにおける解説で、「現行の国際法人税課税のシステムは第一次世界大戦後に国際連盟で取り決められた古いもので、生産活動と本社機能がある国において税が徴収される仕組みであり、商品が販売される国には徴税権がない」と説明した。
ロイター通信は7月1日付の記事で、「合意により、1000億ドル(約11兆1600億円)以上の利益に対する課税権が、企業が本社を構える国ではなく、実際に利益を生み出した国に移る」と伝えた。
デヤンコフ氏はさらに、「多国籍企業は高法人税率の国で生産した部品を低法人税率の国の関連生産企業に高価格で販売することで、低法人税率の国におけるコストを引き上げ、最終製品の生産で課税対象となる利益を減らして税逃れができる。こうした手法は発見しにくく、証明も難しいため、各国の税務当局は手をこまねいてきた。また多国籍企業は、テクノロジーや知的財産など無形財を低税率の国で登録して各国の子会社に販売することで、高税率の国におけるもうけを減らして税を圧縮する」と、企業慣行の問題を指摘した。
◇米政府と米企業の協力
翻って、米ニュースサイト「アクシオス」は7月1日付の記事で、「合意を受けて多国籍企業は、税を支払うか支払わないかという自由の大部分を失うことになるが、どの国で税を払うかという裁量は引き続き保持することになる」と指摘した。
米政治サイト「ポリティコ」も6月30日付の記事で、「今回の国際間の最低税率合意には、極めて高い利益を生み出す米IT大手が支払う税金の大半を他国政府に渡さず、米政府が独占できるようにする意図がある」とした。
この理由として同記事は、「特にフランスをはじめとする欧州などで、米テック企業を狙い撃ちにしたデジタル課税の動きが高まり、米政府と米IT大手は協力して、それら米企業が欧州にもある程度の税金を納める一方で、納税額の大半は米国に支払うような枠組みを作ろうとしたからだ」との見解を示し、「最低税率が米テック大手だけでなく、独自動車メーカーのフォルクスワーゲンや英金融機関のHSBCにも同様に適用されることで、米企業だけが狙い撃ちにされる事態を逃れたため、ワシントンでは米経済にとっての勝利だと見られている」と報じた。
米経済専門局のCNBCは7月7日に、「実際に合意された最低税率が適用されるまでには細部を詰めなければならず、数年はかかる」と予想した。
また同局は7月13日の番組で、「欧州連合(EU)は合意を受けて(米テック大手を実質上の対象とする)域内共通デジタル課税の計画を延期したが、財政難にあえぐ加盟国からの圧力により、計画が10月に復活する可能性がある」と伝え、国際合意にもかかわらず、米テック企業への課税をめぐる米国と欧州のせめぎ合いが続く可能性を指摘した。
(岩田太郎・在米ジャーナリスト)