約4000億円の申告漏れ。課税資産も基礎控除の引き下げが効いて、過去最高だったそうです。引き下げすぎだったかも。
************(以下は6月30日)**************
西条市の脱税事件で判決。執行猶予がついていました。
********************(以下は5月18日)**************
被相続人の口座からお金を引き出すという、よくある手口でした。
*******************(以下、3月18日)********************
親が残した国債を慌てて現金化し、自分の口座に入れたそうです。相続開始前の移動は当然調査の中心項目ですから、飛んで火に入る夏の虫だったかもしれませんな。
*********************(親が隠していた財産の相続)***************
亡くなった親が、税務申告下上で蓄積した財産以外に、税務申告もせずに秘匿してためていた財産もあったとしよう。
この場合はどうしたらいいのだろう。親が秘匿してきた財産も申告しなければならないのだろうか。税法的には当然全部です。下記のように若干量刑で配慮してもらえるだけです。
告人の実父は二四億円余相当の公表財産のほか、二〇億円近くの割引債券、社債、株式等の隠し財産を保有したまま、平成三年五月一七日に死去したが、相続人らの中では被告人だけがこの隠し財産の存在を知っていて、自らこれを管理していた。被告人は、実父がどのような事情によってこれほど巨額の隠し財産を備蓄したのかは分からなかったが、これを公表することは実父の名誉を損なうであろうという気持ちもあって、その存在を秘したまま、共同相続人四名との間で公表遺産のみについての遺産分割協議書を作成し、これに基づき税理士を通じて、虚偽過少の本件相続税申告に及んだものである。なお、本件発覚後に改めてなされた遺産分割協議の結果等にかんがみると、被告人が本件犯行により得た不法の利益は六〇〇〇万円程度であると考えられる。 本件のほ脱税額は二億九〇〇〇万円近くに達し(ほ脱率は約三四・六パーセント)、本件犯行は共同相続人の関係でも適正な相続税の課税を妨げるという結果をもたらしたものである。また、この種事犯については、一般予防の必要性も大きい。したがって、被告人の刑事責任には軽視を許されないものがあるといわなければならない。 しかし、被告人が除外した遺産は,もともと実父が隠し財産としてひそかに備蓄していたものであり、犯行に至った経緯・動機には若干同情の余地があること、被告人は税務調査を受けるや隠し財産の存在を進んで明らかにし、以来一貫して真摯な反省の態度を示していること、相続した財産を処分して自己の相続税の納税を終えていること(共同相続人の相続税の納税もすべて完了している)、被告人には前科前歴がないことなど被告人のために酌むべき事情もある。 以上のほか一切の事情を総合考慮し、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、懲役刑の執行を猶予するものが相当と判断した。(東京地裁平成7年11月14日刑事第八部判決)
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こういう場合は、とりあえず全部申告しておき、万一、隠していた財産に対する他の課税が生じたときは、その分の相続税額を更正の請求で戻してもらうことになると思います。
****************************(架空債務の計上)****************
相続税の脱税方法としてよく思いつくのは、架空の債務をでっち上げることですが、この架空債務を組み込んだ遺産分割協議をした場合、この遺産分割は無効なんだろうか。
公判で、弁護士は脱税額の認定の前提として、この遺産分割の無効を主張しましたが、大阪高裁平成九年三月一二日判決は次のように述べています。
八億円の債務についての分割の合意は、その目的たる債務が架空のものである以上、無効とならざるを得ないのであるが、これは、所論指摘のように、当然に本件遺産分割全体の無効をもたらすものではない。すなわち、法律行為の一部が目的の不能によって無効である場合に当該法律行為全体が当然に無効となるか否かは、その部分が全体との関係で法的に可分かどうかで決せられるべきところ、遺産分割は個別の財産を各相続人にそれぞれ取得させる合意であって、一部の財産に関する無効を他の財産の取得に影響させる物理的必然性はないこと、遺産の一部に瑕疵があったような場合には売主の瑕疵担保責任に準じた処理が予定されていること(民法九一一条)のほか、そもそも本来の遺産分割は積極財産たる遺産を相続人間で分割するものであり、消極財産たる債務の分割は、相続人間における負担部分の定めに過ぎないもの(当然には債務者に対抗できるものではない。)であって、右の本来的遺産分割に含まれないものであることを総合すると、本件遺産分割においても、八億円の債務についての合意は、他の積極財産の分割の合意とは可分なものと言うべく、八億円の債務に関する合意の無効が当然本件遺産分割全体の無効をもたらすものではない。
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この事件では、架空債務をでっち上げた被告人は、当然懲役刑ですが、執行猶予もつけられています。う~ん、いいんでしょうかね。
****************(元裁判官の指示)**************************
平成に起きた脱税事件のうつ、印象に残るものをいくつか取り上げてみましょう。
元裁判官の父から、国外におまえたちのために残してある、誰にもいってはいけない、といわれたらどうしましょう。税理士に相談すべきだろうか?巨額の国外資産を申告しなかった遺族のケースです。
横浜地裁平成23年7月28日第5刑事部判決では、量刑の部分で次のように述べています。
しかし,本件犯行の動機についてみると,長年弁護士(一時期は裁判官)をし,会社経営に携わったこともある人物で,被告人ら家族から絶大な尊敬と信頼を得ていた被相続人が,自らの余命が短いことを知って,上記資産を日本に持ち込むことなく海外で使うようにと被告人らに指示し,それまで上記資産の存在について具体的に知らされていなかった被告人らが,いずれもこれを被相続人の遺志として受け止め,これに従って,相続財産として申告しないこととしたものである。このように,被告人らは,強い影響力を有していた被相続人から,相続税のほ脱を唆すような指示を受けたため,本件犯行に及んだもので,自分らの発意により主体的に脱税工作を企図したものとはいえない。したがって,この点は,被告人らにとって酌むべき事情とみることができる。そして,被告人らは,国税局による調査が開始されると,これに全面的に協力し,本税,延滞税及び重加算税をすべて納付している。加えて,被告人らは,いずれも捜査,公判を通じて事実関係を素直に認め,反省の態度を示して,悔悟の日々を送っている。また,被告人らには,被告人Bと被告人Eの交通関係の各罰金前科を除いては前科がない上,被告人Aには高齢で健康状態も芳しくないという事情もある。 そこで,これらの事情を総合考慮すると,それぞれ主文の懲役刑と罰金刑を併科した上,いずれも懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
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元裁判官や弁護士や脱税を指示するなんて、と怒ってはいけません。そんなもんだと思った方がいいと思います。税法については、裁判官の多くは全く知らないし、できたら払いたくない、という意識は庶民と同じだと私には思えます。