******************(以下は18年5月14日)***********
今度は地方移住に財政支援という政策。ないより良いかもしれませんが、地方自体を魅力ある街にしないと長続きしないのでは。
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2018.05.08 エコノミスト第96巻 第18号82~83頁 で小田切徳美「人口の通説を疑え 移住 少数でもインパクト大の田園回帰」という論文が掲載されていました。こうなると良いのですがね~。
◇通説 地方は人口減で消滅する?
増田寛也氏等による「地方消滅論」は、半数以上の896市町村に「消滅の可能性」があることを予想し、衝撃を与えた。その発表は2014年5月だったが、実は、直後の6月に内閣府が発表したある世論調査の結果は、別の意味で関係者に話題となった。
それは、農山漁村への移住意向を都市住民に尋ねたものである。05年の調査に同じ質問があり、その比較が可能であった。その両年について、「移住の願望がある」という数値を性別年齢別に見ると(図1)、なによりも、14年の男性20歳代の高い値(47・4%)が注目される。しかし、それに加えて、男女を問わず、壮年層(30歳代、40歳代)で、05年から14年の9年間で、高い伸びを示している点も興味深い。この世代は多くがファミリー層であろうが、こうした年齢層での変化がとくに大きいのである。
この結果、70歳以上を除き、各世代の移住願望割合が図中でフラット化している傾向が見られる(とくに女性で明瞭)。つまり、移住意向を持つ者の割合は全般的に高まりつつ、かつ世代差が縮まっている。移住願望は若者や団塊の世代の「専売特許」ではなくなっている。「地方消滅論」の陰で、実はこのような意識変化が進んでいたのである。◇移住者は5年で4倍に
しかし、これはあくまでも「願望」である。そこで、現実の移住者の動向を見よう。その公的なデータはないため、筆者の研究室(明治大学農学部地域ガバナンス論研究室)では15年に、NHK、毎日新聞と共同で全国の自治体を対象に移住者調査をおこなった。移住者数は14年度には全国で1万1735人を数え、09年の2864人から5年間で約4・1倍に増えた。先の「願望」は既に実際の移住行動となり始めていることが確認される。
また、筆者が座長を務めた最近の総務省の調査研究も紹介しておきたい(「田園回帰」に関する調査研究会)。国勢調査の個票を使い、過疎地域に居住するが5年前には都市部に住んでいた人を「移住者」と捉え、そうした人々の数や地域分布などを調べている。
それによれば、移住者を増やす区域の数は、00年から10年にかけての108区域に対し、10年から15年にかけては3・7倍の397区域に増加している(「区域」は平成大合併前の00年4月時点の旧市町村)。これは過疎地域全区域の26%に相当する。◇遠く、小さな町へ
移住者が増えた区域の割合が高いのは沖縄、中国、四国である。従来から田園回帰の強さがリポートされており、データに表れている。また、東北では、特に岩手県沿岸地域で増加が見られるが、これは東日本大震災の復興事業の影響が予想される。
このなかで、沖縄では離島部に移住者増加地区が多い。また図2にも見られるように、中国、四国では、特に県境付近でこの傾向が見られる。また、それは他の地域でも確認される(例えば紀伊半島や中部地方)。つまり、離島や県境という「遠隔地」でこのような現象が顕著なのである。なお、地区人口が小さい地域ほど移住者が増えた割合が大きい。「遠隔地」に加えて「人口小規模」地域で田園回帰が活発化していることがわかる。
◇懐疑その1 仕事はあるのか
それに対して、いくつかの疑問も聞かれる。ひとつは、「そもそも農山村には、仕事などないから持続的な移住など無理だ」というものである。
しかし、移住者、特に若者は、「仕事を持ち込む」(サテライトオフィス化)、「新たに仕事を起こす」(起業化)、「古くからの仕事を新しい形で継ぐ」(継業化)、そして「いろいろな仕事を合わせる」(多業化)という対応をしている。もちろん、すべてではないが、このような挑戦により、地域に仕事を創ろうとする人々がおり、さまざまな形でそれを支えることが求められている。
地域づくりで有名な島根県海士町(あまちょう)のように、「仕事がないから帰れない」のではなく、「仕事を創りに帰りたい」と思う人材の育成を、学校教育のひとつの目標とする地域も生まれている。◇懐疑その2 「焼け石に水」では
さらに「今後予想される急激な人口減少に対して、そんな動きは焼け石に水だ」という議論もある。確かに、先に見たように5年間で4倍に増えたとはいえ、年間約1万2000人という数字はそのような議論を呼び起こしてもおかしくない。
しかし、それは、移住者の質的側面を見逃している。移住者は地域に対して、なにがしかの共感を持ち、それを選択して参入している。そのため、移住者は単なる頭数を超えた力となる。例えば、そうした人々が持つ発信力は、SNSなどの手段により、従来見られないレベルとなり、その発信が、さらに移住者を呼び込むという好循環も生じている。また、移住者が、地域づくり活動に、いわゆる「よそ者」として参加して、新しい発想で貢献している例もある。
そうであれば、人口減少が続く地域にとっては、人の頭数(つまり人口)ではなく、地域への思いを持つ人材の確保や増大が課題とはいえないだろうか。人口減少は不可避であることから「人口減・人材増」が、特に農山村では将来目標にふさわしい。単に人口減少の歯止めになっていないということで、移住者の動きを過小評価してはならない。◇懐疑その3 一時的な現象では
また、「地方部への移住候補者は既に枯渇しつつある」という議論も聞かれる。それに対しては「関係人口」という考え方を紹介しておこう。「農山村などに関心を持ち、何らかの関わりを持つ人々」((『ソトコト』編集長・指出一正氏)であり、定住(移住)人口と観光人口の中間にある人々と言われている。頻繁に地域に通う人もいれば、地域には行かずに思いを深める人もいる。移住だけではない、地域への多彩な関係が現代的特徴なのであろう。
そのなかで、あたかも階段のように、農山村への関わりを深めるプロセス(「関わりの階段」)が見られる。例えば、ちょっとしたきっかけで訪れた農山村に対して、(1)地域の特産品購入、(2)地域への寄付(ふるさと納税等)、(3)頻繁な訪問(リピーター)、(4)地域でのボランティア活動、(5)2地域居住、(6)移住──という流れがある。
田園回帰はこの関係人口の厚みと広がりの結果、生じた現象であると理解できる。若者をはじめとする多彩な農山村への関わりが存在し、そのひとつの形として移住者が生まれている。したがって、今後、人々が多様な形の関係人口となる機会がさらに増えれば、移住者が枯渇してしまうことはないだろう。
このように、地方移住者をめぐる動きは、量的な動向に加えて、質的な要素や時間軸を踏まえて理解する必要があろう。
(小田切徳美・明治大学農学部教授)