輸出商品には消費税がかからない「輸出免税制度」を悪用し、国際スピード郵便(EMS)で商品を輸出したように装い消費税の還付金を不正に受け取る手口が相次いでいる。EMSは一定の条件下では輸出に必要な手続きがないためだ。不正は昨年から目立つようになっており、国税当局は対策強化に乗り出している。(清家俊生)
消費税は国内で売買された商品やサービスにかかる税金のため、輸出品では免税される。国内で商品を仕入れて輸出した場合、仕入れ時に支払った消費税額が国から返還される仕組みになっている。
通常、輸出業者は税関などで輸出先や商品名、数量などの確認を受ける手続きが必要だ。しかし、EMSで20万円以下の商品を輸出する場合、手続きをせず、発送伝票に商品名や重さなどの必要事項を記入すれば荷物を送ることができる。伝票の保存義務もなかった。
不正はこうした簡素な手続きにつけ込んだものだ。商品を仕入れず、郵便も出さずに虚偽の還付申告を行い、還付金を受ける例が確認されている。申告時には仕入れ先を申告書に書く必要があるが、取引を証明する書類の添付は不要だ。書面上で不正を見つけることは難しく、国税当局は申告後の調査を強化している。
偽造伝票
調査での発覚を免れようと手口も巧妙化している。
国内で仕入れた化粧品を中国などに輸出したとして多額の還付金を得ていた関西地方の企業のケースでは、偽造されたEMSの発送伝票が大量に見つかった。仕入れの帳簿もあったが、仕入れ先はペーパー会社で取引に実態はなかった。
他に、空のペットボトルといったごみを発送して取引を装う手口も目立つという。国税幹部は「不正還付は消費税率が高いほどうまみが増す。EMSの不正は2019年に税率が10%になったことが大きい」と指摘する。
EMSに絞った統計はないが、大阪国税局によると、消費税に関する不正は19年7月~20年6月に155件あり、追徴総額は36億1600万円。20年7~12月は26件で22億700万円を追徴した。不正の約2割は輸出免税制度を悪用した還付などが占めている。
悪質な不正が確認された場合、重加算税などの追徴課税が課される。また、過去には輸出免税制度を悪用した経営者が消費税法違反などで告発され、実刑判決を受けたケースもある。
背後に指南役?
不正還付には指南役の存在も取りざたされている。国税関係者によると、輸出先の大半は中国などアジア地域で、不正還付の申告も中国の関連企業や関係者が多いという。また、不正が全国で同時多発的に起きたため、大阪国税局は「外国人がSNSなどを使って指南している」とみている。
国税当局は7月から、東京や大阪など全国の主要11税務署に「消費税専門官」を置き、還付申告のチェック強化を始めた。10月からは20万円以下の輸出でも発送伝票の保存を義務化した。
国税関係者は「対策強化で不正は減るだろうが、新たな手口が出る可能性もあり、警戒を続ける」と話す。
◆国際スピード郵便=120か国以上に重さ30キロまでの書類や荷物を送ることができる日本郵便のサービス。同社の国際郵便の中で最優先で取り扱われ、2~4日で届く。2020年度の取扱数は720万4000個。