〔南米〕アルゼンチン大統領選で放漫財政・デフォルト懸念=阿部賢介
2019.09.17 エコノミスト 第97巻 第36号 通巻4617号 80~81頁
アルゼンチン大統領選挙は10月27日に、得票数1・2位候補者による決選投票は11月24日に実施される。選挙戦は実質上、現職のマウリシオ・マクリ大統領と、最大野党の左派、ペロン党キルチネル派候補のアルベルト・フェルナンデス(A・フェルナンデス)元首相の一騎打ちになる公算が大きい。本選に先駆け、予備選挙(PASO)が8月11日に行われた。予備選は元来政党候補を絞るプロセスだったが、現在、実質的には大規模かつ正確な世論調査という位置づけだ。
マクリ大統領は再選を目指すが、予備選前の世論調査の時点では、A・フェルナンデス元首相がわずかにリードする状況だった。しかし、予備選のフタを開ければ、A・フェルナンデス元首相が得票率47・65%と、マクリ大統領の32・08%を15ポイント以上も上回り、事前の予想を大きく超える結果となった(図1)。◇現政権でインフレ再燃
2015年に就任したマクリ大統領は、13年間続いたキルチネル派政権で疲弊したアルゼンチン財政の立て直しに着手し、断絶していた国際金融界への復帰も果たした。税制・労働などの各種改革も反発を最低限に抑えながら進めていった。しかし、18年に米国の金融引き締めなどに端を発した新興国通貨安の影響を受け、脆弱(ぜいじゃく)なアルゼンチン・ペソは急落、年率20%台に収まりつつあったインフレも40%台まで再上昇した。
金融不安を受け同国政府は国際通貨基金(IMF)に支援を要請し、総額570億ドル(約6兆2700億円)の支援が決まった。IMFからの支援は一時的にアルゼンチンの金融環境を沈静化させたが、19年までに基礎的財政収支を均衡させるなど厳しい目標を課すことになった。アルゼンチンの国民の間には、01年にIMFからの支援を打ち切られ、10%以上のマイナス成長を記録した苦い記憶があり、マクリ大統領のIMFへの支援要請は政権の支持率低下に拍車をかけた。
今回、A・フェルナンデス元首相が予備選で大幅な支持を得たのは、マクリ政権下でのペソ安やインフレ上昇、それに伴う景気後退という敵の失策が主因であるが、ペロン党政権時代の労働者保護やバラマキ政策の心地よさを懐古し、IMF敵視を続ける有権者が多数いることも確かだ。10月の大統領選でも当選が濃厚と見られている。
アルゼンチンは肥沃(ひよく)な土壌を持つ農畜産業大国であり、大豆は世界3位、トウモロコシは同4位、牛肉は同6位の生産量を誇る。日・アルゼンチン間では近年、農畜産業の交流が活発化している。18年にはアルゼンチン産牛肉の対日輸入が解禁され、日本の和牛が初めてアルゼンチンに輸入された。また米中貿易戦争により、アルゼンチンはブラジルと並び、中国向け大豆の重要な代替供給地となっている。地球の反対側だが、アジアの重要な食糧供給地だ。
エネルギー分野でも投資ポテンシャルが大きい。西部バカ・ムエルタ鉱区は、世界最大級のシェールガス可採量(約300兆立方フィート、1立方フィート=約0・028立方メートル)を誇り、マクリ政権発足後、数多くの国内外エネルギー企業が投融資している。00年代以降、ガス輸入国となっていたアルゼンチンだったが、今年6月には初めて液化天然ガス(LNG)を輸出した。南半球に位置するアルゼンチンは、北半球の暖房期に国内のガス需要が低下するため、新たなLNG供給地としても期待が高まる。風力発電を中心とした再生エネルギーや交通インフラ建設の需要も高い。
そもそもアルゼンチンは、1930年代まで先進国の一角として、元宗主国スペインを上回る経済大国であった。しかし他国の金融不安の影響や、国内の労働者保護のバラマキ政策などにより、これまで8回のデフォルト(債務不履行)が発生している。
今回の予備選挙の結果を受け、金融市場はアルゼンチンが再びバラマキ政権に戻るとの観測を強め、アルゼンチン・ペソが一時30%近く急落、アルゼンチン株価も40%近く低下した(図2)。まさにデフォルトを繰り返してきたアルゼンチンに対する低い信用の表れだ。
巻き返し策として、マクリ政権は急きょ、減税や燃料価格上昇凍結などを含む緊急経済対策を発表。敗色が濃厚な中での破れかぶれなバラマキ政策であり、緊縮財政策を進めてきたドゥホブネ財務相は反発して辞任した。マクリ政権はIMFと合意した財政均衡目標は変えないとしているが、アルゼンチン・ペソ安圧力を抑え込むために、IMFが設定した上限を超えるドル売り・ペソ買い介入に踏み切り、外貨準備高は8月末時点で予備選前から15%減少した。
さらに、8月末には国債の満期延長やIMFへの返済スケジュール見直し案を発表したことで、一時的にデフォルト状態に陥った。また、9月に入り、ドルの購入を制限するなど資本規制を開始した。マクリ政権は本選挙まで何とか支持率を回復しようと財政出動策を講じたい一方、金融環境の安定やIMFとの合意履行のためには緊縮財政の継続が必要であり、板ばさみ状態だ。◇左派有力候補は自制か
一方で、勝利が濃厚となったA・フェルナンデス前首相は、予備選前には国債の利子払いを停止し、年金支払いに当てるという過激な政策に言及したものの、予備選後は「誰もアルゼンチンのデフォルトを望んでいない」と言及。IMFからの支援についても、現在の借り入れ条件は厳しいため、再交渉が必要としながらも、支援受け入れ継続の意向を示している。
A・フェルナンデス陣営で経済政策を担当するニールセン元財務省次官なども、債権者との対話を重視するメッセージを出している。そもそもA・フェルナンデス元首相は、キルチネル派政権下で実施された価格統制や輸入規制といった過激な政策志向を取っているわけではない。もしA・フェルナンデス元首相が勝利しても、必ずしも以前のバラマキ政策に戻るわけではない、という期待もある。
経済ポテンシャルを発揮できるか、デフォルト常習犯に戻るか。地球の反対側の国は、岐路に立っている。
(阿部賢介、丸紅経済研究所シニア・エコノミスト)
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***************(以下は18年9月8日)***************
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アルゼンチンの最新情報。緊縮財政策と輸出品への課税が軸のようです。
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ますます深刻。ビジネスが止まりはじめているそうです。
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アルゼンチンの続報。ますます厳しくなっているようだ。
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世界へと波及するアルゼンチン発の危機(真意一到・エコノミスト2018.06.05 第96巻 第22号 通巻4553号)
前号の本欄でアルゼンチンなど新興国リスクが指摘された。筆者もやはり新興国の現状が気になっているので、改めて触れてみたい。通貨ペソの急落に見舞われたアルゼンチンが5月、国際通貨基金(IMF)に300億ドル(約3兆3000億円)の緊急融資枠の設定を要請したことが分かり、IMFも前向きに支援を検討していることが報じられている。それでも、史上最安値圏にあるペソ安の水準はなかなか反転しない。
アルゼンチン・ペソ下落の背景にあるのは、アルゼンチンが経常収支赤字国であることだ。経常収支が赤字ということは、海外から国内への資金流入よりも国内から海外への資金流出のほうが大きいということであり、海外からの債務に頼らざるを得ない。自国通貨下落は外貨建て債務の増加となり、財政リスク増加により資本逃避につながる。資本逃避はさらなる通貨下落要因となる悪循環だ。
同様に下落しやすかったブラジル・レアル、インド・ルピー、インドネシア・ルピア、トルコ・リラ、南アフリカ・ランドが数年前、「フラジャイル5」(脆弱(ぜいじゃく)な5大通貨)と呼ばれたが、その共通点は経常収支が赤字であることだ。中でも、アルゼンチン危機の影響を最も受けやすいのは、隣国のブラジルだろう。ブラジル・レアルも現在、下落しているが、ブラジル経済にはまだ悪影響は出ていない。ブラジル経済は資源が主要産業であり、原油などの資源価格の上昇に助けられているためだ。
ただそれは、もし資源価格の上昇がピークアウトして下落に転じた場合、一気に悪影響が顕在化する可能性があることを意味する。アルゼンチン、ブラジルなどの南米各国には歴史的に、スペインやポルトガルの銀行が多く融資をしてきた。南米で通貨危機が顕在化すれば、これら南欧の銀行の不良債権が増加し、銀行の経営悪化がユーロ圏の大きな問題として再浮上する。また、世界的に景気減速が起こるとすれば、企業業績の外需依存度が高い日本やドイツも悪影響を受ける。特に、悪影響が中国経済まで及んだ場合、中国依存度の高い日本はより大きな影響を受けることになるだろう。
一方で、悪影響を最も受けにくいのが、米国経済・米国企業業績だ。新興各国から逃避する資本が向かうのは米ドルで、それは米国債の買い需要となるため、米長期金利が上昇することに歯止めをかけ、長期金利の過度な上昇は抑制される。さらに米国株式市場は、世界景気に敏感な業種の構成比が低いという要因もある。新興国通貨危機が深刻化すればするほど、米国の相対的優位性が高まっていく。トランプ米政権の狙い通り、ここで中国経済を弱らせることができれば、米国の地位は盤石になる。
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金利がすでに40%になっているそうです。大変ですね~。
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アルゼンチンがまたまた、支援要請だそうです。でも、この政権のせいではありません。前の政権が垂れ流しをしたからに他なりません。まともに戻そうとすると、国民に負担を求めざるを得ず、そうすると支持率が下がり、またまた政権交代で垂れ流し。日本と同じことがここでもおきているように思います。