スポーツ賭博全米で解禁へ 最高裁が容認(2018.07.03 エコノミスト第96巻 第26号 通巻4557号 62頁)
全米では、プロ、アマチュアを問わずにスポーツ賭博を原則として禁じていた。その根拠となる連邦法が「1992年プロ・アマ・スポーツ保護法(略称:PASPA)」だ。5月14日、連邦最高裁は同法を違憲とし「スポーツ賭博は、連邦ではなく、各州が独自に合法性を判断し規制すべき」との見解を示した。これによりスポーツ賭博が全米解禁の道を歩み始めた。
PASPAの必要性を強く訴えたのは、ニュージャージー選出のビル・ブラッドレイ上院議員(民主党)である。プロバスケットボール選手として活躍した同氏は、賭博が若者に与える悪影響などを唱え、スポーツを賭博から切り離すことを主張した。
今回の違憲判決は、同氏のお膝元であるニュージャージー州での裁判がきっかけとなった。PASPAは、制定前から州がスポーツ賭博を管理していたネバダなど4州を除きスポーツ賭博を禁止したが、制定から1年以内に要件を満たした州は、禁止が免除される「特約」も設けられた。このため、アトランティックシティーなどの有名なカジノを有するニュージャージー州では、スポーツ賭博合法化を巡り激しい議論が行われたものの、時間切れで断念した。
その後、同州知事に就任したクリス・クリスティー氏は、財政立て直しの一環としてスポーツ賭博の実現を推進し、2012年には州法で合法化した。これに対し、スポーツ賭博に反対の立場を取る米ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)などの主要スポーツ団体が、ニュージャージー州をPASPA抵触で訴えた。裁判の結果、同州は完敗した。
だが、クリスティー知事も簡単には諦めない。14年、スポーツ賭博復活を宣言すると、再びスポーツ団体はニュージャージー州を訴える。またも下級審で敗訴した同州だが、控訴審を経て、決着が最高裁に持ち越される頃には、他州からニュージャージー州を支持する声が次々と増えた。潮目の変わった5月、土壇場の逆転劇で同州が勝利をもぎ取った。◇ネットゲームが影響
これまで一部の違法なスポーツ賭博は黙認されてきたが、昨今、合法化容認ムードが広がった背景には、「ファンタジー・スポーツ(FS)」というゲームがオンライン市場で拡大したことも一因だろう。業界団体によると、17年の米国とカナダのユーザー数は約6000万人、市場規模は約70億ドル(約7700億円)だ。
プレーヤーは、お気に入りの現役選手で構成した、架空のマイチームを編成してゲームに参加する。選手たちの実績や勝敗で算出されたポイントがマイチームの成績となり、ランキングや賞金を競う。したがってFSはスポーツ・データを分析し予測する知的ゲームと言える。しかし、最近ではギャンブル性の高いゲームの人気が増している。
PASPAが成立した四半世紀前の米国では、スポーツの純粋さや倫理性を重んじる意見、言わば、高潔な「建前論」が優勢であった。しかし、最近では、ニュージャージー以外の州でもスポーツ賭博合法化に向けた動きが表れている。第一に、非合法なまま放置するよりも、実状に鑑みて合法化した方が、皆が安心して楽しめる。カジノの客が増えることで、州政府には税収増、スポーツ団体にはファンの増加といった経済メリットも期待できる。今回の最高裁判決は、米国社会全体の合理的な「本音」が勝利した瞬間とも言えよう。
なお、PASPA制定時のニュージャージー州内議論で、スポーツ賭博合法化賛成の論陣を張った一人は、当時、同州でカジノを経営していたトランプ大統領であった。
(秋山勇・伊藤忠経済研究所長)