こんな書評がありました。
〔書評〕読書日記 詐欺師か経済学者か 歴史を動かす問題児たち=楊逸(2018.10.30 エコノミスト 53頁 )
×月×日
猛暑。台風。地震。立て続けに天災に見舞われた日本。ようやく秋風が吹き始めた。一方野菜の値は高騰した。平年の同時期と比べ、キャベツは50~60%も高く、ニラは1束150円に跳ね上がった。
ふと、最近中国のちまたでささやかれている「割韮菜」を思い出す。元々「ニラ刈り」という意の俗語だったが、近年株価を操作することで一般投資者から投資金を巻き上げ、一部の者が利益を得る手法の暗喩として使われている。
一部の者? そんな疑問を頭に、『世界史を変えた詐欺師たち』(東谷暁著、文春新書、980円)に惹(ひ)きつけられた。「一人を騙せば犯罪だがみんなを騙せば経済政策?」帯に書かれたその一文を読んで、日ごろ見聞きする○○ノミクスといった類いの、いかにも経済学らしい用語が目に浮かび上がる。
1700年代のフランスで、ルイ15世の財政再建を図ったジョン・ロー。万有引力を発見したアイザック・ニュートン。肖像が米100ドル紙幣に使われているベンジャミン・フランクリン。そして、最近仮想通貨ビットコインを作ったとされる正体不明のサトシ・ナカモトを含む、世界金融史に名のある11人もの「経済学者」を取り上げ、各々の「経済論」の裏に隠された「素顔」をのぞかせてくれる一冊だ。
誰だって金が欲しい。ブランドのバッグを買うのも、朝食でバナナを1本食べるのも、金がなければできない。一家の主婦にとっても一国の王にとっても同じこと。300年前のフランスでは、長い戦争を経て王位とともに5歳の息子に莫大(ばくだい)な財政赤字を残して、ルイ14世が崩御した。摂政に就くオルレアン公がこの一大危機を乗り越えようと、賭博師だったジョン・ローを総理大臣にした。彼は「信用創造」のため国立銀行バンク・ジェネラルを設立し、紙幣を大量に発行することになる……。
どうにも回避できない危機を前に、誰もが一度は「もし奇跡を起こせる魔術師がいたら」と思うような経験をしただろう。本書に登場する他の「経済学者」も、大抵そういう「危機」のお蔭(かげ)で頭角を現したのだ。
ジョン・メイナード・ケインズの「経済は不確実性のなかにあり、確信や信頼こそが経済システムの結節点を作り上げている」という言葉が、本を閉じてからもこだまして、しばらく耳から離れなかった。×月×日
「日本で70歳以上が前年に比べ100万人増え、総人口に占める割合は20・7%と初めて20%を超えた」というニュースにショックを受ける。そういえば「塀の中だって高齢化」していると、『刑務所しか居場所がない人たち』(山本譲司著、大月書店、1500円)に書いてあった。その多くは累犯らしい。
2006年の下関駅放火事件の犯人・福田九右衛門(当時74歳)が語った「刑務所に戻りたかった」という犯行動機にとりわけ衝撃を覚えた。老齢化が進む中、福祉のあり方について考えさせられる。
(楊逸・作家)