エコノミスト第95巻第39号通巻4520号(2017.10.10)67頁によると、アメリカのバーニー・サンダース米上院議員(無所属)は9月13日、民間医療保険や企業の従業員向け医療保険を廃止し、代わって連邦政府が徴収した税金で医療費を支払う国民皆保険「単一支払者制度」を創設する法案を発表したそうだ。
 この案に対する批判もあり、次のような点も指摘されている。いろいろな問題が見えてきますね。

保守派シンクタンクであるケイトー研究所のマイケル・タナー上席研究員は9月14日付の『ニューヨーク・ポスト』紙に寄稿した。「サンダース氏の案は、歯科治療や視力矯正が含まれるなど、メディケアよりかなり被保険者に有利だ。事実、(政府が運営する医療保険のなかで比較的行き届いた)カナダのものより優れている。しかも保険料は無料で、受診料も患者自己負担もない。欠点があるだろうか」と、一見長所ばかりのようだ。

 しかしタナー氏は「『タダ』ほど高いものはない。ある試算では、連邦予算の36%に相当する1兆4000億ドル(約156兆円)の年間費用がかかる。この財源としてサンダース氏は、賃金を支払う雇用者に課される給与税を7・5ポイント引き上げて税率を23%にする一方、全国民の所得税を一律4ポイント引き上げ、さらに富裕層課税と法人税徴収を強化するという。これでは、米国人はみな貧乏になるし、雇用や経済成長も押し下げるだろう」と批判論者だ。

 一方、ジョージメイソン大学のタイラー・コーエン教授は9月12日付のブルームバーグ通信の評論サイトで、「法案が成立すれば、民間医療保険に加入する米国人を、政府が運営する保険に移行させなければならない。それは難しいだろう」と述べた。その理由として、「欧州などでは医療費が比較的安価な時代に国民皆保険制度が導入され、政府が力ずくで保険支払額を抑制してきた。だが(既に医療費が高騰した)米国では、強力なロビー活動を繰り広げる医師や医療機関が、医療費の引き下げに同意するとは思えない」と悲観的だ。

 ◇重視するのは市場か福祉か

 シンクタンク「フーバー研究所」のランヒー・チェン研究員らは9月19日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙で、「他国で医療が成果を出せるのは、医療支出が効率的だからではない」と指摘した。米国は1人当たりの医療支出が世界一高いものの、「医療支出に社会福祉支出を加えた『健康関連支出』で比較すれば、米国は突出していない。日本や英国は医療支出が高騰中であり、米国で単一支払者制度は最適ではない」と主張した。

 また、民間医療保険提供者団体「米国医療保険プラン」のデイビッド・メリット副会長は9月13日、「法案は、被保険者の選択を奪い、医療の質を下げ、国民の税負担を増やすだけだ。医療コストを下げ、保険でカバーされる人を増やすには、現在1億8000万人が利用する民間医療保険の市場を強化するのが一番だ」との声明を発表した。

 議論が続くなか、すべての医療保険を即時、全面的に単一支払者制度へと一本化するのではなく、過渡期の措置として民間保険商品と、加入者が保険料を支払う公的保険を競わせるなど複数の案が、民主党のクリス・マーフィー上院議員などから出されている。

 折衷案を評して、『ロサンゼルス・タイムズ』紙のコラムニスト、ドイル・マクマナス氏は「若い加入者が増えるほど、コストが下がる。サンダース氏の法案より受け入れやすい」と評価した。

(岩田太郎・在米ジャーナリスト)