朝日新聞が連載しているパラダイス文書は面白い。南ドイツ新聞の記事と連携しているようだ。第一部を引用、紹介させていただきましす。

 

(パラダイス文書)第1部・影の案内人:10 格差広がる島「恩恵ない」

 ■ICIJ・南ドイツ新聞提携

 「メディアの皆さん、おはようございます」
 11月6日朝、英領バミューダ諸島のデイビッド・バート首相は記者会見に立った。この日、世界で一斉にパラダイス文書の報道が始まっていた。文書の主な流出元は、この島で創業した法律事務所「アップルビー」だった。
 「本来は違う話題のつもりでしたが、いまバミューダが置かれた深刻な状況を考え、アップルビーについて話します」。火消しを図る首相は、政府の税逃れ対策を列挙し、訴えた。「バミューダはカネを隠す場所ではない。透明性があり、法令を守っています」
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 「パナマ文書」の際は、直後からパナマの街頭で市民らの抗議デモが起きた。
 バミューダでも、タックスヘイブン(租税回避地)への不満は聞こえてくる。
 「恩恵なんて感じたことはない」。タクシー運転手のカルブレットさん(57)は、平日は金融大手の事務員、週末はホテル清掃員と掛け持ちする。「朝から晩まで働かないと、子どもが産まれた瞬間に破産だよ」
 バミューダでは法人税がかからない代わりに輸入品への関税が高い。
 英国の移住情報サイト「ムーブハブ」が2月に公表した調査では、バミューダの生活費は、スイスやアイスランド、ニューヨークなどをしのいで世界最高だった。食料や交通、電気などの物価を比べた。「お金持ちが集まるタックスヘイブンとしての評判が一因だ」と指摘している。
 タックスヘイブンの経済構造について、国際NGO「税公正ネットワーク」の創設者ジョン・クリステンセンさんは「巨大な金融部門を抱えることで、不動産価格や生活必需品の値段があがる。一般市民には配達や清掃など給与の低い職種しか回らず、格差が広がりやすい」と分析する。
 ただ不公平感が広がる一方で、街は平静を保つ。
 2年前に投資銀行を解雇されたフィルさん(55)は言った。「島から出ても、行くところなんてない。タックスヘイブンと非難されても、何もないよりはましだ」=第1部終わり

(パラダイス文書)第1部・影の案内人:9 資源ない島の生き残り戦略

 ■ICIJ・南ドイツ新聞提携

 オフショア・マジックサークル――。タックスヘイブン(租税回避地)を専門とする法律業界は、そう呼ばれる。中心的な法律事務所は世界に約10社ある。
 「魔法の輪」の一つであるアップルビー。2010年、ロンドンで開かれた式典で、1千人を超える国際弁護士らの視線を独占していた。この日、業界で最も成功した事務所として「年間大賞」を受賞した。
 「名誉ある国際的な賞をいただき、とてもうれしい。我々の目標であり、努力が認められた思いです」
 執行役の男性は喜びを隠しきれなかった。
 アップルビーの歴史は125年を超える。
 1888年。英国生まれのレジナルド・アップルビー弁護士は、母の故郷である英領バミューダ諸島へ移り住んだ。数年後、ここで法律事務所を創業した。
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 ただ、バミューダはもともとタックスヘイブンだったわけではない。
 「バミューダの歴史に感銘を受けるのは、変化し、適応し、生き残る力だ」
 地元紙ロイヤル・ガゼット元編集者のビル・ズイール氏が産業史をひもとく。
 「ビーチと太陽のほかに天然資源がない」という島は、いつも海外の潮流に合わせて成長してきた。
 無人島だったバミューダに人が移り住んだのは17世紀のことだ。難破船でたどり着いた英国人が定住し始め、当初はたばこ栽培が栄えた。それが廃れると、造船業から農業と変遷し、1980年代までは観光が主要産業だった。
 バミューダの副首相と財務相を務めたボブ・リチャーズ氏は、こう解説する。
 「地図に指を置いてみて。この島は、ワシントンとニューヨークに近い。驚くほど米国の権力の中枢に近い戦略的な立地にある」
 島は歴史的に、米国や英国によって、軍事やビジネスの拠点として利用され続けてきた。輸入に頼るバミューダは、高い関税などで税収を得るかわりに、法人税はゼロ。近年は、それに目をつけた海外企業が一気に進出し、タックスヘイブンとして発展した。
 この30年で島の国際金融ビジネスは急成長。アップルビーも一気に世界各地へと勢力を拡大した。

(パラダイス文書)第1部・影の案内人:8 「秘匿性」に群がる顧客

 ■ICIJ・南ドイツ新聞提携

 法律事務所「アップルビー」の役員秘書の女性を困惑させるメールが届いたのは、2015年7月24日午後のことだった。
 「この企業の過去5年分の情報を開示して下さい」
 メールの送り主のアドレスの末尾は「@gov.bm」。英領バミューダ諸島の政府をあらわすものだ。税逃れを防ぐ目的で、世界の国・地域が互いに租税情報を交換する条約に基づく依頼だった。
 「上司に相談します」
 23分後、秘書はひとまず、こう返事を出した。
 相談を受けた上司も判断に迷った。
 「もし『はい』と答えれば、顧客情報を渡さなければならない。『いいえ』と答えれば、記録保管の義務に反すると責められる可能性がある。社長に聞いてもらえる?」
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 最終的に、アップルビーは政府の求めに応じることにした。だが苦渋の決断だったことが、パラダイス文書で流出した一連のメールやその後の社内のやり取りからもうかがえる。
 「顧客には、記録を開示したことを報告しないということで良いですね?」
 担当社員からの問いに、上司はこう答えた。
 「報告しなくていい。情報を漏らしたと責められたくないから」
 アップルビーはなぜ、保秘にこだわるのか。
 それは、タックスヘイブン(租税回避地)に集まる顧客の目的が、「税逃れ」だけでなく、「秘匿性」にもあるからだ。
 巨額の資産を隠したい富豪や大企業、秘密の取引をしたい犯罪者集団……。なかには、名義貸しを利用して会社の真の所有者を隠すケースもある。
 パラダイス文書で、日ごろ秘匿されているこうした取引の一部が見えた。不透明な取引への批判は国際社会で高まりつつある。
 だが、取材を率いた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)のマリナ・ウォーカー副事務局長は、なお厚い壁があると語る。
 「パナマ文書で、私たちはタックスヘイブンの全容をつかんだと思っていた。パラダイス文書でわかったのは、私たちが知らないことが、まだまだたくさんあるということだ」

(パラダイス文書)第1部・影の案内人:7 「ギフト」、役人に特別配慮

 ■ICIJ・南ドイツ新聞提携

 2015年11月7日、英領ケイマン諸島。冬の日中の平均気温が25度の南国でも、クリスマスの準備が始まっていた。
 法律事務所「アップルビー」の現地事務所で、「クリスマスギフト」と題したリストが作成された。所属弁護士ら12人それぞれが、プレゼントを贈る相手を一覧にしたものだ。
 パラダイス文書で流出したリストに記されていた贈り先は1629人分。顧客だけでなく、大手銀行や会計事務所、ライバルの法律事務所など幅広い。
 さらにケイマンの副首相や大臣、金融当局幹部、裁判官ら数十人の名もある。そうそうたる面々だ。
 別の年の社内メールには、こんな記述もあった。
 「特に土地登記担当と貿易ビジネス担当の役人は、ギフトの内容によって翌年にうちの事務所が受けられるサービスに差が出ます。気をつけましょう」
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 各国の政界とのつながりは、贈り物だけではない。
 英王室属領ジャージー島の金融庁。08年の理事の一人は、アップルビーで20年以上も働いた女性だった。
 ケイマンの裁判所で金融を担当する男性裁判官の一人も、アップルビー出身。しかも社に在籍中、島の法改正委員まで務めていた。
 さらにアップルビーの元CEOの男性はいま、英領バミューダ諸島の上院議員に転身している。
 アップルビーの、政界への太い人脈がうかがえる。
 アップルビーが拠点を構える世界各地のタックスヘイブン(租税回避地)は資金洗浄や脱税、粉飾の舞台になることがある。このため政府や金融当局は本来、アップルビーを監視する立場にある。
 実際、15年10月にはバミューダ当局から、法令違反で罰金が科せられた記録があった。同社は処分を受け入れ、支払いに50万ドル(6100万円)を用意した。
 しかし、その直後、アップルビーの幹部はこんな報告をまとめている。
 「この件で外部からの批判はなかった。バミューダ金融当局はこの件を秘密にすると約束してくれた」

(パラダイス文書)第1部・影の案内人:6 コンプラ違反の境界で

 ■ICIJ・南ドイツ新聞提携

 2014年7月22日朝。法律事務所「アップルビー」の社員2人に、一文だけのメールが送られた。
 「なぜこの件を事前に私に知らせなかったんだ」
 怒りのこもった内容に、返信はない。
 6時間後にもう一通。
 「これはものすごく重大だ。ブラッド・ダイヤモンド(血のダイヤ)が絡んでいる」
 血のダイヤ。アフリカの紛争地で闇取引されたダイヤのことだ。
 2通のメールを送ったのはアップルビーのコンプライアンス(法令・社会規範の順守)部長のロバート・ウッズ氏だった。
 怒りの理由はこうだ。
 13年、ベルギーのダイヤ会社がアフリカのビジネスで得た利益を隠していたとして、税務当局に1・6億ユーロ(204億円)を支払ったと報じられていた。
 翌14年、アップルビーの担当者はこのニュースを知りながら、ダイヤ会社からの依頼で、新たな信託会社をケイマン諸島に設立していた。汚れた資金をタックスヘイブン(租税回避地)に隠した――。そう受け取られかねない行為だった。
 ウッズ氏のメールでの指摘から10日後。長時間の会議が開かれた。
 だが出た結論は、「リスクの高い顧客だが、全体的にはいいビジネスだ」。
 優先されたのは、倫理より利益だった。
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 パラダイス文書の報道に「不正はない」と反論したアップルビー。
 だが、流出した内部文書からは、常にコンプライアンス違反の境界線で揺れる姿が見える。
 内外の監査で、毎年のように法令上の問題点が指摘されている。顧客の半数についてその資金源をアップルビーが把握していないという調査もあった。
 11年に社内で開かれた、コンプライアンス研修。
 「罰則」と題したスライドには、牢屋に入れられた人物の絵。「懲役20年」「財産差し押さえ」との脅し文句も並び、法令順守の大切さが改めて説かれた。
 別の社内文書には、こんなコメントもあった。
 「我々が法令順守でタックスヘイブンのトップだと認められるには、まだまだ膨大な努力が求められる」

第5回 税逃れ、GDPを押し上げた

第4回 アップルの「本音」暴く

第3回 疑惑の主、トランプ氏の恩人

第2回 重要顧客、売上総額54億円

第1回 F1王者へ、税逃れの提案書(1) (2)